授業短信 平成30年9月29日 崎野 隆一郎先生

平成30年9月29日(土)【1時間目】

新しい時代にガキ大将は必要か?

子どもはいつもの時代も「社会を映す鏡」と言われます。かつてはどこの地域にもいたガキ大将がいつの間にかいなくなった現代社会で、子どもに本当に学んで欲しいことは何なのか。30泊31日子どもキャンプを主催している崎野先生にお話を伺いました。

急いても氷は育たない

Honda Woods活動アドバイザーに就任する前、氷を使ったイベントに携わっていました。極寒地域の雪はパウダースノーで軽くて乾燥しているので、風が吹くだけで飛んでしまう。固まらないので雪玉も雪だるまも作れません。アメリカ在住の知人を訪ねてイヌイットのイグルー(圧雪で作られたシェルター)の作り方を聞き試したのですがそれもダメでした。

試行錯誤を経て見つけ出した工法が、湖の氷に穴を開け、水を汲み出し、野菜コンテナに詰め込んだ雪にその水をかけてシャーベット状にした上で一晩凍らせて作ったブロックを使う方法。氷のブロックは一つが25kgから30kgと大変重い。ブロックを組み合わせ、シャーベット状の雪をセメントがわりのつなぎとして使いながら、氷上露天風呂などいろんな建物を作りました。

氷の世界にいると、1週間、2週間ぶっ続けで苦労して作ったものが翌朝、湖水に沈んでいることがよくありました。やがて「一気に作るとダメ」ということがわかってきました。一気に作ると土台の氷が割れ、そのヒビに水が入ります。それに構わず作り続けていると、重さに負けて沈むのです。ある時は、透明なアイスグラスを作ることがありました。人工的に急速に作ると空気が入るので透明な氷は作れない。少しずつ成長させた氷は天然の氷と同じく透明になります。「氷は育てなきゃダメなんだ」ということを実感しました。

30泊31日キャンプは人の土台づくり

北海道のネイチャーセンターで実施した体験学習をベースに、海外では当たり前だけれども、当時日本であまり普及していなかった親御さんが参加しない子どもキャンプを栃木県で17年前に始めました。この子どもだけの30泊31日キャンプはテントで生活し、ナイフを使ったり、魚をさばいたり、生きることへの土台を培います。バイク教室もあり路面が荒れた林道を走ります。食事は火起こしから飯ごう炊飯まですべて自分で行い、できない子はその日のご飯が食べられません。今までで最長では4日間ご飯が食べられない子どももいました。それでも子どもたちは徐々に慣れ、最終日に近づくようになると、大抵の子はマッチ3本だけで火を起こせるようになります。

60キロ歩かせるイベントもあります。ある年のエピソードで、足が痛くて歩けなくなった子どもがいました。残りはまだ16kmもあり、一時は連れて帰ろうかとも思ったのですが、「子どもたちに任せてみたら」というスタッフの声もあり、見守ることにしました。子どもたちは歩けなくなった子を代わるがわるにおぶり、おぶえない子は荷物を持ち、皆で助けあいながらゴールしました。

子どもキャンプで見えてくること

自然の中で人や生き物と関わることは現代の子供を良い方向にかえるという結果が出ています。寝つきが良くなったり、視力が良くなったり具体的な身体状態の改善効果も調査で解明されはじめています。

私は30泊31日キャンプではいつも「子どもと付き合うには、愛と哲学が大切だ」と話しています。大きな声を出したり高いところに登ったり、普段は危ないとさせてくれないことをさせる。逆にスマホを使って簡単にコトをすませることは許されず、ホームシックになって泣いても誰も慰めてくれない。子どもと直に接して、子どものことを知り尽くしたうえで、子どもの仲間として付き合う大人—現代のガキ大将—が必要だと肌で感じています。

とことん付き合ってくれる大人がいると子どもはやがて気持ちが落ち着いて前向きになってきます。ホームシックで泣いている子にはいっぱい泣けといって褒めれば、やがて泣くことをやめます。あまり話をしたがらない子にはろうそくの明かりの下でご飯を食べるとやがて自分のことを語り出します。自転車を嫌がっていた子につきっきりで付き合い、2日後とうとう自転車に乗り、バイクにも乗れた時は皆で泣きました。

まさに氷との付き合い方と同じです。子どもに時間かけて向き合い、育てる。その役割を担う現代のガキ大将はこれからもずっと必要だと感じています。

PHOTO: Nobuhiro Kaji