授業短信 平成30年9月29日 成澤 俊輔先生

平成30年9月29日(土)【2時間目】

『大丈夫、働けます。~人と会社が幸せになる仕事のつくり方~』

「理不尽な人生、ムカつく人生は、人に話し、人の役に立つことで、“いい経験だった”と言い換えることができる」と話す成澤先生。どんな人でも社会と繋がれる、多様な働き方を実現するため、授業では、一人一人の「考え方」をどうイノベーションするか、そのコツをお教えいただきました。ここではそのごく一部をご紹介します。成澤先生のお話を聞き、個人的には私が小さい時に母からもっと「大丈夫」って言ってもらえていたら、と思いました。

強みって何?弱みって何?

「あなたの強みはなんですか?」と聞かれると、人は大抵、「自分で頑張って、こう見られたいこと」を話します。「元気で明るいのが強み」だと答えたら、「元気で明るい」とありたい、なりたい自分を話すのが一般的です。
一方で、僕はこう考えます。「強みとは、毎日できていること」。「言わなくてもできること」。「継続できていること」。

例えばこういうお話があります。ある企業でダウン症の方が社長秘書として働いている。仕事は書類のシュレッダーかけで、年棒が800万円。聞いただけでは、耳を疑ってしまうでしょう。考えてみてください。障害のない方が会社の機密書類をシュレッダーにかけていた場合、2つのハプニングが考えられます。ある日その人はシュレッダーの最中、気分転換をするためにその書類に目を通してしまうかもしれない。そしてそこで得た情報を飲み会で話してしまうかもしれない。ダウン症の方は文字が理解できません。そのため機密漏洩の心配をせずに書類の処分ができます。一般的には「文字が理解できないこと」という弱みが、働く環境を選ぶことによって、他に得がたい強みになるのです。

発達障害の方の特徴の一つである、「こだわりが強い」「細かいことが気になる」も、仕事によれば強みになります。口コミサイトの品質向上のための内容チェックはその強みが生かされています。どんな人でも強みを生かして働くことが可能なのです。

好きなことは強みになる

「努力は夢中には勝てない」という言葉があります。好きなことが何なのか、それを働く人本人にはっきりさせて社内の風通しを良くさせることに成功した会社があります。

大阪にあるパプアニューギニア海産という会社は、かつて社内には派閥があり、パート社員さんの定着率も悪く、働く人にとってあまり良い環境ではありませんでした。そこで働く人の幸せにするための一つの手段として「フリースケジュール」を導入しました。この制度は好きな時間で働け、遅刻、早退、欠勤の連絡さえしなくてよいというものです。フレックスを例え導入してもその申請をすることが億劫になり、そこに働きづらさが生まれるのでは、と考えたためです。当初心配された「パート社員さんが誰も出勤しない日」が発生したのは、制度の導入後の4年間でたったの1日。その日は正社員が対応しました。

パート社員さんは、2カ月に一度、面談して、自分の「好きな仕事」と「嫌いな仕事」を申告することができます。「嫌い」と申告した仕事は2カ月間一切やってはいけません。その仕事を「好き」な人に譲り、好きな仕事だけ業務を担当することで、仕事に集中しやすくなります。このような「働きづらさ」を生み出していた原因を特定し変えていくことで、職場の雰囲気も良くなりました。人と自分を比べる必要がなくなった結果、派閥がなくなり、嘘、悪口もなくなったのです。

大丈夫、働けます。~人と会社が幸せになる仕事のつくり方~

私は「働く」価値観を変革することで、就労困難とされる人々に「大丈夫」という言葉を届けたいと考えています。
実は私自身がこの言葉をずっと誰かに言って欲しかった。
徐々に視力を失う視覚障害とそれを原因とする孤独感や挫折感で大学時代は2年間引きこもりました。

大学卒業後に就職した会社はリーマンショックで解散し、独立しても困難な状況が続きました。人からはいつも「難しい」と言われ、「大丈夫」と言ってくれる人はいなかった。私は自身の経験を話すことで、少しでもたくさんの方々に「大丈夫」を届けたい。理不尽な人生、ムカつく人生を話して人の役に立たせることで、いい経験だったと言い換えることができると考えています。これからは経営・組織・事業のイノベーションでどんな人でも社会と繋がる多様な働き方が実現できます。障害を持つお子さんのお母さんに「大丈夫」と言えるよう、どんな命に対しても強み、好きなこと、自分が自分らしいなと思える瞬間をプロデュースするのが僕の使命と考えています。

PHOTO: Nobuhiro Kaji