紀州くちくまの熱中小学校第2期のテーマは「デジタル時代の生き方・働き方」です。各分野を代表する先生方にお話をいただきます。
平成30年11月10日(土)【1時間目】
上松 恵理子 先生
(武蔵野学院大学准教授・東京大学先端研客員研究員)
教科:新教育
「ICTって、何ですか?」と授業中にクラスメイトから聞かれましたが、うまく答えることができませんでした。家に帰って調べました。Google Chromeで「ICT」とタイプするだけでプルダウンメニューに「ICTとは」と予測ワードが出てきます。その通り!と思いながら検索をかけるとたくさん説明ページが出てきました。その中のひとつから、ICTはInformation and Communication Technology(情報通信技術)の略語だとわかりました。ある程度初歩的な知識を得ることは、ICTの使い方のひとつかなと考えました。生まれた時からネット環境に接している「デジタル・ネイティブ」と呼ばれる現代の子どもたちはICTの使い方をどうマスターしていけばいいのでしょうか?今までのように「いつの間にか覚える」ではよくないはずです。
下期2回目の1時間目、上松先生の授業は「学校教育におけるICT」にフォーカスを当ててお話をいただきました。
「デジタル時代のリテラシーとは何か」
-海外の学校ICT化の実例から-
社会人大学院で学び直してICT教育の道へ
まず、私自身についてお話します。大学卒業後に中学と高校の教員として就職しましたが、結婚を機に一度退職しました。その後、職場に復帰したのですが、情報テクノロジーが想像以上に進展していたことに驚き、これはもう一度学び直したほうがいいと考えて社会人入学で高校教員として働きながら大学院へ通い、博士号を取得しました。
日本ではまだまだレアケースですが、欧米ではこのように一度社会に出たのちに、自ら目的を見つけて学び直しをするキャリアパスが一般的に普及しています。例えばスイスの場合では8割の人が中卒で就職しますが、職業訓練などの成人教育を受けながらキャリアのステップアップを図ります。銀行トップが中卒で入行されていると言うのも珍しくありません。
2020年小学校にプログラミング教育がやってくる!
2020年からプログラミング教育が小学校の必修科目として導入されます。プログラミング言語は多種多様で言語間の交流はありません。つまり、ある特定のプログラミング言語に精通していても、ほかの言語になるとまったくわからない人が多い。これから小学校でプログラミング教育を始めるのにもかかわらず、生徒の学びを後押しするメンターが複数のプログラミング言語を理解できていない。子どもを持つ主婦の視点から見てもこれは危機的状況と捉えて「小学校にプログラミングがやってきた!超入門編」を2016年に上梓しました。また、フィンランドをはじめ北欧を中心に海外の教育現場を訪問し、各国が取り組んでいるICT教育の現地調査を行いました。これらの調査結果は教育新聞に発表しましたが、100万以上のアクセスをいただきました。世間のICT教育への関心の高さがうかがえると思います。
デジタル時代のリテラシー
プログラミング教育にはなぜか先入観があり「一日中画面を見ていて、子どもによくないのでは」とおっしゃられる方もいらっしゃいます。
少し上の世代なら、スマホを使う生活、使わない生活というのを個人で選択できます。IoT (Internet of Things:モノのインターネット)の技術で身の回りのあらゆるモノがネットと繋がるようになる時代では、スマホを使わないという選択肢がなくなります。同様にロボットが生活に入り込んでくるのなら、ロボットの特性や利点を理解して、どう使うのかを学び、考え出すことがむしろ大切です。例えばイギリスのバーミンガム大学では自閉症の子どもとロボットとの関わりを研究しています。ロボットにわざと間違わせ、自閉症の子どもがロボットに教えるという手法を開発し、自閉症児教育に貢献しています。
日本では「教育にITが必要」と説いても、先生ご自身がITのことがわからない方が多いです。日本で禁止されているスマホは、海外の学校では授業中に自由に検索させ、わからないことをその場で理解させるための教育ツールと利用しています。デジタル時代においては、常識そのものが変わってきます。子どもだけではなく、親や先生含めて子どもに関わる全ての人を対象とした横展開型のICT教育が必要です。 国際団体ATC21sはデジタル時代となる21世紀以降に必要とされる10項目のリテラシー的スキルを「21世紀型スキル」としてまとめました。リテラシーは時代に沿ってどんどん増えます。ほんの少し前、ITリテラシーはごく一部の人にだけ必要でしたが、今や多くの人に求められるものになっています。次世代を育てる教育現場に携わる方は、今まで以上に時代感覚を持って自らのリテラシーをアップデートする必要に迫られています。
21世紀型スキル
思考の方法
創造力とイノベーション
批判的思考、問題解決、意思決定
学びの学習、メタ認知(認知プロセスに関する知識)
仕事の方法
情報リテラシー
情報通信技術に関するリテラシー
仕事のツール
コミュニケーション
コラボレーション(チームワーク)
社会生活
地域と国際社会での市民性
人生とキャリア設計 個人と社会における責任
(文化に関する認識と対応)
PHOTO: Hitoshi Tamada, Keiichiro Sata, Shigetoshi Okita